放浪人の物好き日記

生きる。導かれるままに生きる。

緑豊かな大地に潜むミミックをダムをもって制す

今日は是非オランダでの暮らしの"リアル"について紹介したい。

風車とチューリップの写真よりは現実味のある話である。

 

 

筆者はアムステルダム郊外Hoofddorpという、ちょっとした街に住んでいる。

小綺麗なショッピングセンターがある中心部から、風車を横目に牧場を抜けて自転車で10分。 

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自転車道はこの風車の脇を抜け、牛が闊歩する牧場内へ。

 

借りている部屋のすぐ隣では運河が流れている。

白鳥が泳ぐ運河とちょっとした林に囲まれた、オランダらしい地区の一角である。

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余談だが、写真ついでに東京駅も載せておこう。

 

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 こちらがアムステルダム中央駅で、東京駅のモデルになった。

もちろん、その風貌の相似は偶然ではない。

 

さて、その運河の向かい側には、Party Centerという建物がある。

これが今日の物語の中心的役割を果たす。

名前から想像がつくかもしれないが、そういう場所である。

近隣住民としては、それはもう名前からして勘弁してほしい。

下見では見落としていて、引っ越し完了のあとその存在に気づいたのであった。

 

 

物語は昨晩、金曜日の夜8時頃に始まる。

Party Centerからベースの音がブンブン。

ドンドン、ブンブン、ドンドン、ブンブン、

ドンドン、ブンブン、ドンドン、ブンブン。

いつも以上に威勢が良い。

結婚式をしていようが、パーティをしていようが関係ない。

これは異常である。彼らの音をここまではっきりと意識したことはない。

 

音量について、あらかじめ一言申したい。

おそらく読者の皆さまの多くは日本の基準で想像されている。

ヨーロッパのパーチーなるものはすごい。

グローバルスタンダードは日本の想像をはるかに上回る。

ぜひ世界基準で考えていただきたい。

 

まずヨーロッパの壁は鬼のように厚い。

冬の寒さに耐えるための、赤レンガ造りの小屋を想像していただきたい。

セントラルヒーティングを入れるための断熱に最適である。

その堅固な壁を揺らして、振動する音量たるや筆舌尽くし難いものがある。

 

 

夜11時頃にさすがに、これはどうしようか。

400gのプリンを食べながら、考えた。

冷蔵庫の奥に保存していたら、プリンの一部は凍ったらしい。

ヨーロッパではよくあることだ。

 

さて手始めとして、まずは電話だ。

Google Mapで悠々と輝くスポットの詳細を開く。

目に飛び込んでくる写真には、金髪の男女がワインを高々と掲げ乾杯している。

そのパーティとしては魅力的な笑顔が、今はなんとも場違いである。

 

写真の下に、+31から始まる電話番号を見つけた。

オランダの国番号である。

なになに、+31 23......okay.

発信可能な状態にしてから、30秒戸惑う。

さて、何を、どの順番で言ったら良いか。

プリンを食べ切りながら、推敲を重ねること3分。

 

それ間も建物中に響くブンブンブンブンが、筆者の電話への期待を否応になく高めている。

 

とにかく手元の緑の発信ボタンは押された。

そう賽は投げられたのである。

ついに僕のHuaweiはその100m先のまだ見ぬ酒宴へ繋がる…はずであった。

 

呼び出し音が10回くらいなったあと、オランダ語の自動アナウンス。

至極残念ながら、不在着信である。

これほど残念なことはない。

声高らかに酒宴を催していながら、その電話口を取らないとは何事ぞ。

 

録音のためのビープ音が虚しく響いている。

 

さて、どうするか。

真っ先に出てくるアイデアは、現場、であろう。

着替えて、300mぐらい歩いて、酔っ払いの中をかき分け、スタッフ・DJの耳元で

「音量を下げろー」

と訴えるのである。

非常に簡明かつ古典的な方法である。

 

しかし、この手法は歓迎されない。

近隣オランダ人とゴタゴタ起こしたくない。

非常に直接的な接触である。

 

オランダ人がオランダ人とオランダ人のために暮らしている。

この辺りの地域はすでにオランダのローカル色が強い。

それはアムステルダムで過ごした学生時代との大きな違いである。

 

話は脇道に逸れるが、"International"とは「優しさ」だと思う。

国際的とはキラキラしているのではなく、人間の血の色ではないか。

「誰もはじき出さないぞ」って。

多様性が共生する土台には、挑戦者それぞれの、悔しい過去・悲しい過去が導く思いやりがある。

 

昨冬、ロンドンを訪れた時のことを思い出した。

ロンドンで学生時代を謳歌した日本人にお世話になった。

高校からロンドンであったであろうか、したがってざっと5,6年は海外であろう。

 

アルコールの入った陽気なビジネスマンが行き交う夜の帰り道、ふとした会話だ。

海外で暮らすと、基本的に圧倒的マイノリティになる。

特に海外に飛び込んだ直後なんて、会話も満足にできない。

毎日、辛くてどうしようもない。

 

 

事由は好奇心にせよ、不可抗力にせよ、みんな辛かった。

生きていくこと自体にサバイバルを覚えた。

その記憶が、飛び込むことの痛みや苦しみを生々しく感じさせる。

だから、飛び込んできた人に優しいし、飛び込んでいく人を見つめる。

言葉・行動の重さをまっすぐに慮ることができる、感じられる。

 

やや筆者の解釈を加えて、話を整理してしまった。

しかし、大枠はこのような言葉を交わした。

白い吐息がロンドンの闇に溶け込むように、印象的な言葉であった。

 

 

さて、話は現在のHoofddorpの片田舎に戻る。

あとはオランダでは警察を呼ぶ、と言う手もある。

しかし、ここら辺で筆者は一つ結論にたどり着く。

 

ひとまず寝よう。

漆黒と赤レンガを貫く音量は、夜半1時を超えても落ち着くことはなかった。

 

 

ここで整理すると、大事なのは何が起きたか、ではない。

その問題に対して、いかに苦闘しながら対処していくか。

これをぜひお伝えしていきたい。

したがって、これからが本題なのである。

 

今朝起きると、やはりすっきりしない。

昨晩の不服が、朝の寝起きをすっきりしないものにさせている。

不快感をためておくことこそ、よろしくない。

 

これからがこの物語の本題である。

 

朝食のフレークを食べてから、一日は始まる。

3ステップで、この難題を前進するための策略が採用された。

 

その一、my best Dutch frinedに相談。

昨晩のなりゆきを説明し、ローカルの知恵を請う。

 

彼、若く22歳にして、乗り越えてきた修羅場の数々、天下の武者の如く限りなし。

オランダ暮らしは毎日トラブルとの戦い。

そして肝心のトラブルの時に、頼りになるMr マックス。

 

さて、彼の答えは…あまりパッとしない。

要約すると、オランダ人によるオランダ的地域でのオランダ的最善策は「引っ越し」とのこと。

 

気になる人向けに、ここからオランダローカルな彼の、崇高なロジックを紹介しよう。

まず構造としては、施設に対して役所が深夜営業の許可を出している。

そして役所は新しい入居者のクレームを重要視しない。

 

他に仔細なやり取りを経て、感触を深める。 

確かに、オランダではこのように世界が回っていそうだ。

今までの積み重ねてきた感触が、彼の推測のもっともらしさを裏付ける。

  

ここでもやや話が逸れるが、オランダの風土はすごく合理的でストレート。

めんどくさいことはしたくない。

 

私にとって大事なことは、とても大事なこと。

あなたにとって大事なことは、あなたのこと。

 

人間らしい、とも言えるだろうか。

解釈は読者のみなさんに委ねられている。

 

ここではいかにオランダが素晴らしい国かはポイントではない。

とにかくこの劣悪な環境を克服するべく、話を本題に戻したい。

 

 

やがて第二・第三のステップと手を打つ。

 

第二のステップは簡略化して述べたい。

大家に相談した結果、彼がバケーションから帰ってきてから役所に正式な陳述書を提出できる、とのこと。

よしよし。

 

 

第三、ついに迎えた最後の山場。

それは何であろうか。

おそらくすでに読者のみなさまは検討のついていることであろう。

 

午前に二つのステップを完了させランチを食べた後に、電話をかけた。

もちろん昨晩、不在着信になった、あの番号である。

はじめに断っておくと、午後2時にかけると肩透かしを食らう。

再び不在着信であった。

 

時は来たる。

時計は午後3時18分を指す。

 

いつも通り、雨が降り止まない。

予報によれば、あと10分で小雨の落ち着きを得るという。

よし、それまでにこの難題を片付けたい。

リベンジだ。

 

プルプル、と続く呼び出し音が2回。

3回目に差し掛かった時に、"Goed.... middag (Good afternoon). Blahblah"と男性の声が!

ついに、出たな!

もはやドラクエで宝箱を開けた以上である。

もはや開けようとした宝箱がミミックである。

携帯を握る指先まで、赤い血が一気に駆け上ってくる。

 

はやる気持ちを抑えながら、

Hallo(Hello), umm, do you speak English? May I?

と、一応尋ねる。先方が一言、

Yes

(Oh, you said "yes")とそう内心思った瞬間に、筆者の中のダムが決壊した。

昨晩のストレスで水位が上がっていたのだろう。

普段以上に流暢な、というか勢いのある英語である。

まさに圧倒的と言う表現がふさわしい決壊であった。

 

まずはお世辞が大切である。

Did you enjoy good music last night?

と、非常に礼儀正しく、言質をとる。

 

ここら辺で相手が英語をあまり話せないことに気づく。

なぜなら、tonight?と返される。

いや、LAST nightと押し込む。

 

相手がYesと言った。

これはもう、おそらく攻め入るしか道はあるまい。

相手が分かろうが分かるまいが、理解してもらうまで説明するしかない。

もっとも筆者の中のダムはそれを容易く遂行しえるだろう。

 

あとの大劇場のあらすじは読者の皆さまの想像に任せたい。

 

 

筆者のダム決壊が圧倒的すぎたのか、彼が何を考えたのかはわからない。

筆者には彼が全くわからない。

 

正確に言おう。

筆者は最大限の努力をして、理解しようとした。

その高ぶる血とはやる鼓動を抑え、彼の言葉に懸命に耳を傾けた。

 

彼の返事は次第に、筆者には認識できなくなる。

彼はオランダ語で返事をしているようにも思えたし、ひどくオランダ語訛りの英語だったのかもしれない。

 

しかし、大事な言葉はしっかりと電話口から聞き取った。

"Music","I am sorry"の二語である。

この二つの言葉が彼の状況理解を示している。

 

そう筆者は勝ったのだ。

ついに、この20時間にも及ばんとする死闘を制した。

このI am sorryに対して、Yes, you are very sorryと叩き込みたい気持ちを抑え。

 

そして、最後にこう付け加える。

Your business is good.

そして、But pleaseと念を押しながら、電話越しの大戦争は幕を閉じたのである。

 

この電話大攻防戦が、果たしてどれほどの成果があったのかは全くわからない。

そしてこれは世の常であるが、全く期待しない方が良い。 

 

しかし、読者の皆さまに、幸いにも良いニュースがある。

 

今晩、土曜の夜は、静かである。

 

昨晩とは比べものにならない。

記事をこうやって執筆できるほどである。

 

そこらで、誰かが花火・爆竹を暴発させていることを除いては。